「パソコンが壊れたので、急きょ買い替えることになった」
「今年になって複数のシステム更新が重なり、IT関連の支出が一気に増えた」
「毎月のクラウドサービス料金が増えているけれど、全体でいくら使っているのかわからない」
福祉事業所のIT予算では、このようなことが起こりがちです。
パソコン、タブレット、Wi-Fi、介護・福祉業務システム、Microsoft 365などのクラウドサービス、セキュリティ対策。現在の福祉事業所では、さまざまなITが日々の業務を支えています。
ところが、IT関連の支出を「必要になったら購入するもの」と考えていると、更新時期が重なった年だけ支出が膨らみ、予算を組みにくくなります。
大切なのは、IT予算を単年度の「買い物リスト」として考えるのではなく、数年先までの更新計画を含めて考えることです。
この記事では、福祉事業所の施設長・事務長・法人本部・管理職の方に向けて、IT予算をどのように整理すればよいのかを解説します。
IT予算は「今年いくら使うか」だけでは考えにくい
一般的な備品であれば、必要になった年度に購入するという考え方でも対応できる場合があります。
しかしIT機器やシステムには、
- 機器の老朽化
- メーカーサポートの終了
- OSやソフトウェアのサポート終了
- ライセンス料金の継続発生
- セキュリティ対策
- 業務変更に伴うシステム改修
といった要素があります。
つまり、「まだ動いているから使い続ける」だけでは判断できません。
IPAも、ITシステムを定期的に分析・評価し、老朽化・複雑化などによる技術的負債を避けることや、IT資産を整理しながら継続的に見直していくことの重要性を示しています。
福祉事業所でも同じで、IT予算は「故障したら出すお金」ではなく、事業を安定して続けるための維持・更新費用として捉える必要があります。
IT予算は4つに分けると整理しやすい
IT関連費用をすべてひとまとめにすると、何にいくら必要なのかわかりにくくなります。
まずは、次の4つに分けてみると整理しやすくなります。
1.日常的に発生する「運用費」
毎月・毎年継続して発生する費用です。
たとえば、
- 業務システムの利用料
- Microsoft 365やGoogle Workspaceなどの利用料
- インターネット回線
- ドメイン・サーバー
- セキュリティサービス
- 保守契約
- ITサポート費用
などがあります。
近年はクラウドサービスが増えたことで、「購入したら終わり」ではなく、毎月・毎年費用が発生するITが多くなっています。
契約数が少しずつ増えていくと、気づかないうちに年間費用が大きくなっていることもあります。
2.数年ごとに必要になる「更新費」
パソコンやネットワーク機器などは永久には使えません。
たとえば、
- パソコン
- タブレット
- スマートフォン
- Wi-Fiアクセスポイント
- ルーター・ファイアウォール
- NASなどの保存機器
- 周辺機器
などです。
ここで重要なのは、「壊れたら交換」ではなく、あらかじめ更新予定を決めておくことです。
更新周期に唯一の正解があるわけではありません。メーカーの保証期間、OSのサポート状況、使用頻度、性能、故障状況などを踏まえ、自組織の基準を決めます。
たとえば、
「2027年度は事務部門のPC」
「2028年度は支援部門のタブレット」
「2029年度はWi-Fi設備」
というように予定しておけば、ある年度に更新が集中することを避けやすくなります。
3.業務改善のための「投資費」
既存環境を維持するだけでなく、仕事のやり方を改善するためのIT投資もあります。
たとえば、
- 記録システムの導入
- 勤怠管理のクラウド化
- ペーパーレス化
- チャット・グループウェアの導入
- AI活用
- 業務自動化
- ネットワーク環境の改善
などです。
厚生労働省も、介護・障害福祉分野において、単にテクノロジーを導入するだけではなく、業務の見える化や課題整理を行ったうえで改善につなげる考え方を示しています。
そのため、「新しいシステムを買う予算」から考えるのではなく、
どの業務を改善したいのか
→ そのために何が必要なのか
→ ITを使う場合はいくら必要なのか
という順番で考えることが重要です。
4.想定外に備える「予備費」
ITでは、計画どおりにいかないこともあります。
突然の故障や、
- 落雷による機器故障
- セキュリティインシデント
- 急な職員増加
- 法人・事業所の増設
- システム仕様変更
- サービス料金の改定
などが発生する可能性があります。
すべてを正確に予測することはできません。
そのため、予算を限界まで使い切る計画にするのではなく、一定の変動に対応できる余地を持たせておくことも大切です。
まず「IT資産一覧」を作る
更新計画を作るためには、現在何を使っているのかを把握する必要があります。
最初から高度なIT資産管理システムを導入する必要はありません。
Excelやスプレッドシートでも構いません。
最低限、次の項目を整理します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 種類 | PC、タブレット、Wi-Fi、システムなど |
| 名称 | 製品名・サービス名 |
| 数量 | 台数・契約数 |
| 導入時期 | 購入・契約した年月 |
| 年間費用 | 利用料・保守料など |
| 保証・サポート | 終了予定日 |
| 更新予定 | 交換・見直し予定年度 |
| 担当者 | 管理する部署・担当 |
| 備考 | 課題や契約条件など |
これだけでも、
「PCが何台あるのかわからない」
「いつ購入したかわからない」
「誰が契約したサービスかわからない」
という状態から抜け出せます。
そして一覧を作ると、翌年度だけでなく、2年後、3年後に必要になる費用も見えてきます。
更新計画は3〜5年程度を見渡す
IT予算を考えるときは、単年度予算とは別に、中期的な更新予定表を持っておくと便利です。
たとえば次のように整理します。
| 項目 | 2027年度 | 2028年度 | 2029年度 | 2030年度 |
|---|---|---|---|---|
| PC更新 | ○ | ○ | ||
| タブレット更新 | ○ | |||
| Wi-Fi更新 | ○ | |||
| 業務システム | 保守 | 保守 | 更新検討 | 更新 |
| セキュリティ | 継続 | 継続 | 継続 | 継続 |
| 新規業務改善 | ○ | ○ | ○ | ○ |
重要なのは、4年後の金額まで正確に予測することではありません。
「いつ、何が更新時期を迎えるのか」を見えるようにすることです。
毎年見直せば十分です。
更新時期を分散させる
更新計画を作ると、もう一つ大きなメリットがあります。
それは、支出の集中を防げることです。
たとえば同じ年度に、
- PC30台
- Wi-Fi設備
- サーバー
- 業務システム
を導入したとします。
何も計画しなければ、数年後にこれらの更新時期も同時にやってくる可能性があります。
一度に大きな費用が必要になるだけでなく、機器選定や設定、職員への説明などの作業も集中します。
そのため、緊急性のないものについては更新年度を分散させることも検討します。
IT予算の平準化は、単なる経費管理ではありません。
IT担当者や現場職員の負担を平準化することにもつながります。
「購入価格」だけで予算を考えない
IT導入では、最初に提示された価格だけに目が向きやすくなります。
しかし実際には、
- 初期設定
- データ移行
- 職員研修
- 保守
- ライセンス
- 周辺機器
- ネットワーク整備
- 将来の更新
などが必要になる場合があります。
安いと思って導入したシステムでも、数年間の総額で見ると別の選択肢より高くなることがあります。
そのためIT予算では、導入時の価格だけではなく、使い続けるために必要な費用全体を見ることが大切です。
補助金ありきで計画しない
介護・障害福祉分野では、ICTやテクノロジー導入に対する支援施策が行われることがあります。厚生労働省でも、介護・障害福祉現場におけるICT・テクノロジー活用や生産性向上に関する情報を継続的に公開しています。
活用できる制度があれば有効に使いたいところです。
ただし、
「補助金があるから導入する」
という順番には注意が必要です。
本来不要なシステムを導入したり、補助対象期間が終わった後の利用料を考えていなかったりすると、結果として負担が増えてしまいます。
まず、
「この業務課題を解決したい」
「この設備は○年度に更新が必要」
という組織側の計画があり、その実現に利用できる制度があれば活用する。
この順番で考える方が、IT投資の目的がぶれにくくなります。
IT予算に「売上の○%」という正解はない
「ITには年間予算の何%くらい使えばよいのでしょうか」
という疑問もあります。
しかし、福祉事業所に共通する一律の正解を決めるのは困難です。
同じ規模の法人でも、
- 拠点数
- 職員数
- PC台数
- 使用する業務システム
- クラウド化の程度
- 内製・外注の違い
- ネットワーク構成
によって必要な費用は大きく変わります。
そのため、「他法人が何%だから」という基準より、
自法人が持っているIT資産と、今後必要になる更新・改善を積み上げる
という考え方の方が実務的です。
予算が足りないときは優先順位をつける
更新計画を作ると、「全部実施するには予算が足りない」ということもあります。
その場合は、すべてを同じ優先度で考えません。
たとえば、
止まると事業継続に影響するもの
セキュリティ上の問題があるもの
メーカーサポートが終了するもの
職員の負担軽減につながるもの
将来的に実施したいもの
と整理します。
「古いから交換する」という機器起点ではなく、事業継続・安全性・業務改善など複数の視点から判断することが重要です。
IT予算は「経費」ではなく事業運営の計画として考える
IT関連費用は、ともすると「できるだけ削減したい経費」として扱われます。
もちろん不要な契約や過剰な設備は見直す必要があります。
一方で、
- 記録
- 請求
- 勤怠
- 給与
- 情報共有
- インターネット
- セキュリティ
など、現在ではITが止まることで事業運営そのものに影響する場面が増えています。
だからこそIT予算は、単なる備品購入費ではありません。
「事業を安定して続けるために、どのITを維持し、どこを更新し、どこを改善するのか」
を考えるための予算です。
年に1回、管理職とIT担当で確認する
立派な計画書を作って終わる必要はありません。
むしろ重要なのは、毎年更新することです。
年度予算を検討する時期などに、
- 現在のIT資産を確認する
- 翌年度に更新するものを確認する
- 3〜5年先の更新予定を見る
- 継続契約の金額を確認する
- 新しく改善したい業務を整理する
- 優先順位を決める
という確認を行うだけでも、IT予算はかなり見通しやすくなります。
可能であれば施設長・事務長などの管理職だけではなく、IT担当者や実際にシステムを使用する職員も参加するとよいでしょう。
まとめ|IT予算は「更新計画」から考える
福祉事業所のIT予算で重要なのは、「今年いくら使えるか」だけを見ることではありません。
まず現在利用している機器・システム・サービスを整理し、
運用するもの
更新するもの
改善のために投資するもの
想定外に備えるもの
に分けて考えます。
そのうえで3〜5年程度の更新予定を作れば、数年後に突然大きなIT費用が発生する状況を減らせます。
IT予算を考えることは、パソコンを何台買うか決めることではありません。
法人・事業所がこれからも安定して仕事を続けるための環境を、計画的に維持することです。
最初から精密な計画を作る必要はありません。
まずは「何を持っていて、いつ更新するのか」を一覧にするところから始めてみてください。
参考資料
- 厚生労働省「介護分野における生産性向上」
- 厚生労働省「障害福祉分野における生産性向上・手続負担軽減」
- 厚生労働省「障害福祉現場における介護テクノロジー等導入・活用マニュアル」
- IPA「DX推進指標」関連資料

