権利擁護とは何か?社会福祉士が押さえたい基本

権利擁護とは何か?社会福祉士が押さえたい基本

「権利擁護」という言葉は、社会福祉の現場で頻繁に使われます。

しかし、「成年後見制度を利用すること」「虐待を防ぐこと」といった個別の制度や対応だけを指すわけではありません。

権利擁護の中心にあるのは、一人ひとりが自分の人生の主体として尊重され、自分の権利を知り、意思を表し、その権利を実際に行使できるよう支えることです。

社会福祉士にとって権利擁護は、特別な場面だけで必要になるものではありません。相談援助、意思決定支援、虐待対応、成年後見、地域づくりなど、ソーシャルワーク実践全体を支える重要な視点です。

この記事では、権利擁護とは何か、その基本的な考え方と社会福祉士に求められる役割を整理します。

目次

権利擁護とは

権利擁護は、英語の「advocacy(アドボカシー)」と関連して説明されることがあります。

簡単にいえば、本人が本来持っている権利が守られ、その権利を行使できるように支援することです。

私たちは誰もが、人として尊重され、自分の生活について考え、選び、社会に参加する権利を持っています。

ところが、認知症や障害、病気、貧困、虐待、社会的孤立、情報不足、コミュニケーション上の困難などによって、自分の希望を伝えたり、必要な制度を利用したりすることが難しくなる場合があります。

また、本人が権利を持っていても、その存在を知らなければ行使することはできません。

そのようなときに、本人の声を聞き、必要な情報をわかりやすく伝え、意思を表明できる環境を整え、必要であれば制度や社会資源につなぐことが権利擁護です。

さらに、虐待や差別などの権利侵害が生じている場合には、その侵害を止め、本人の安全や生活を回復するための働きかけも含まれます。

つまり権利擁護とは、単に「本人を守ること」ではありません。

本人が自分の人生の主体であり続けられるようにすることが重要なのです。

社会福祉士にとって権利擁護が重要な理由

権利擁護は、社会福祉士の専門性と深く結びついています。

日本社会福祉士会の倫理綱領では、「人間の尊厳」「人権」「社会正義」「集団的責任」「多様性の尊重」「全人的存在」が原理として掲げられています。また、行動規範では、クライエントの自己決定を尊重すること、意思決定を支援することなどが示されています。

社会福祉士の支援は、「困っている人にサービスを紹介する」だけではありません。

本人の希望が支援者や家族の考えによって置き去りにされていないか。

本人に十分な情報が伝わっているか。

本人が意見を言える機会が確保されているか。

差別や虐待、不当な制限を受けていないか。

制度を利用できない背景に、本人だけでは解決できない社会的な障壁がないか。

こうした視点を持って支援を考えること自体が、権利擁護につながっています。

「本人のために決める」と「本人が決める」は違う

権利擁護を考えるうえで、特に重要なのが自己決定との関係です。

支援者から見れば、「こちらを選んだほうが安全だ」「このサービスを使ったほうが本人のためだ」と感じることがあります。

しかし、専門職が本人に代わって「最善」を決め続けてしまえば、本人が自分で考え、選択する機会そのものを奪ってしまう可能性があります。

そこで重要になるのが意思決定支援です。

意思決定支援では、本人が自分で決めることを基本に、情報の伝え方を工夫したり、選択肢を整理したり、十分に考えられる時間や環境を整えたりします。

厚生労働省も、成年後見制度における意思決定支援について、本人の意思を踏まえた後見事務を行うためのガイドラインや研修を整備しています。

言葉で意思を表すことが難しいからといって、「本人には決められない」とすぐに判断するわけではありません。

表情や行動、これまでの生活歴、価値観、人間関係なども手がかりにしながら、本人の意思や選好をできる限り確認していきます。厚生労働省の成年後見制度に関する啓発資料でも、本人に代わって決定することは最後の手段として位置づけられています。

権利擁護とは、本人から決定を取り上げることではなく、本人が決定できる可能性を最大限に広げることでもあります。

権利擁護が必要になるのはどんな場面か

権利擁護は、成年後見制度を利用するときだけ必要になるものではありません。

たとえば、高齢者本人は自宅で暮らしたいと考えているのに、本人への十分な説明や確認がないまま家族だけで施設入所を決めようとしている場合があります。

障害のある人がサービスの選択について十分な説明を受けず、周囲の人が決めた支援を受け続けていることもあります。

家庭内で虐待を受けている人が、自分から助けを求められない場合もあります。

必要な福祉制度を知らず、利用できる支援につながっていないことも権利擁護上の課題です。

さらに、本人の財産が第三者によって不適切に使われている、本人のプライバシーが必要以上に共有されている、障害や年齢などを理由に社会参加の機会から排除されているといったケースも考えられます。

権利侵害は、暴力や虐待のように目に見えやすいものだけではありません。

「本人のことを思って」という善意の支援の中でも、本人の意思や権利が置き去りになることがあります。

そのため社会福祉士には、表面的な問題だけを見るのではなく、本人の権利という視点から状況を捉え直す力が求められます。

権利擁護は「守る」だけではない

権利擁護という言葉から、「弱い立場にいる人を守る」というイメージを持つことがあります。

もちろん、安全を確保し、権利侵害から本人を守ることは重要です。

一方で、「守る」という考え方が強くなりすぎると、本人の行動や選択を必要以上に制限する危険もあります。

たとえば、転倒する可能性があるから外出させない、金銭トラブルが心配だから本人にはお金を持たせない、失敗する可能性があるから選択させない、といった対応です。

リスクを完全になくそうとすると、本人の自由や経験する機会まで失われることがあります。

だからこそ権利擁護では、安全だけでなく、本人の尊厳、自由、自己決定、社会参加など複数の権利を考えながら支援する必要があります。

「危険があるからできない」と終わらせるのではなく、どうすれば本人の希望を実現できるかを一緒に考えることも権利擁護です。

本人への支援だけでなく、環境にも働きかける

もう一つ大切なのは、権利擁護を本人だけの問題にしないことです。

本人が困難を抱えている背景には、家族関係、地域環境、制度、組織、社会の偏見や差別など、さまざまな要因があります。

たとえば、わかりやすい説明が用意されていないために本人が制度を理解できないのであれば、問題は本人の理解力だけにあるわけではありません。

本人に合った方法で情報を伝えることも必要です。

相談窓口につながりにくい人がいるなら、本人に「相談に来てもらう」だけではなく、アウトリーチなどによって支援する側から働きかける方法も考えられます。

個別のケースを通して同じ問題が繰り返されていることがわかれば、組織や制度そのものを改善する働きかけが必要になる場合もあります。

個人への支援と社会への働きかけを行き来することは、ソーシャルワークの重要な特徴です。

権利擁護もまた、本人だけに働きかけるものではなく、本人を取り巻く環境や社会を変えていく実践を含んでいます。

成年後見制度は権利擁護のための「一つの手段」

権利擁護について学ぶと、成年後見制度と結びつけて考える機会も多くなります。

判断能力が十分ではない人について、契約や財産管理などを法的に支援する成年後見制度は、権利擁護を支える重要な制度の一つです。

ただし、権利擁護=成年後見制度ではありません。

意思決定支援や福祉サービス、地域の相談支援、虐待防止、日常生活を支える仕組みなど、さまざまな方法を組み合わせながら本人を支援することが大切です。

成年後見制度については、2026年6月17日に制度を大きく見直す法律が成立し、6月24日に公布されました。改正法では、現行の後見・保佐を廃止して補助制度を中心とした仕組みに見直すことなどが定められています。成年後見制度に関する主要な改正部分の施行日は、公布から2年6か月以内に政令で定めることとされており、2026年10月3日現在は施行前です。

制度そのものも、本人に必要な支援を必要な範囲で提供し、本人の意思をより重視する方向へ見直しが進んでいるといえます。

社会福祉士に求められる権利擁護の視点

社会福祉士が権利擁護を実践するとき、特別な手続だけを覚えればよいわけではありません。

日々の支援の中で、「本人はどうしたいのか」「本人に情報は十分伝わっているか」「本人が意見を言える環境になっているか」「支援者側の価値観を押しつけていないか」と問い続けることが重要です。

本人の意思だけでは解決できない問題があれば、家族や関係機関、多職種、地域の社会資源と連携します。

権利侵害が疑われれば、安全確保や虐待対応など適切な仕組みにつなぎます。

法的な支援が必要であれば、成年後見制度などの利用も検討します。

そして、同じ問題が地域や組織の中で繰り返されているのであれば、その仕組み自体への働きかけも必要です。

権利擁護は一つの「援助技術」ではなく、社会福祉士が支援を考えるときの基本姿勢と捉えると理解しやすくなります。

まとめ|権利擁護の中心にいるのは「本人」

権利擁護とは、本人が持っている権利を守るだけではなく、その人が自分の意思を表し、自分の人生について選択し、社会の中で生活していくことを支える取り組みです。

大切なのは、「支援者が本人を守ってあげる」という発想だけにとどまらないことです。

本人にはどのような希望があるのか。

本人自身が選択するために、どのような支援が必要なのか。

その権利を妨げている環境や仕組みはないか。

こうした問いを持ち続けることが、権利擁護の出発点になります。

そして、この考え方は「自己決定の尊重」「意思決定支援」「虐待防止」「成年後見制度」といった個別のテーマにつながっています。

権利擁護を制度の名前として覚えるのではなく、ソーシャルワーク実践全体を貫く視点として理解することが、社会福祉士にとって重要です。


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