「記録を入力しようとすると画面が止まる」
「事務所では使えるのに、居室へ行くとWi-Fiが切れる」
「昼頃になると急にインターネットが遅くなる」
福祉施設でも、タブレットやノートパソコン、スマートフォンなどを使う場面が増え、Wi-Fiは業務を支える重要なインフラになっています。
Wi-Fiに不具合が起こると、単に「インターネットが少し使いにくい」という話では済まないことがあります。
記録システムへの入力、職員間の情報共有、オンライン会議、クラウドサービス、ネットワークプリンターなど、複数の業務に影響する可能性があるからです。
一方で、
「Wi-Fiが遅い=Wi-Fiルーターが悪い」
とは限りません。
インターネット回線、Wi-Fiの電波、ルーターやアクセスポイント、利用している端末など、さまざまな場所に原因が考えられます。
大切なのは、いきなり機器を買い替えることではなく、「どこに問題がありそうなのか」を順番に切り分けることです。
この記事では、福祉施設や福祉事業所でWi-Fiが遅い・切れるときに、まず確認しておきたいポイントを整理します。
Wi-Fiが遅い・切れる原因は一つではない
Wi-Fiトラブルを考えるときは、大きく次のように分けると整理しやすくなります。
- インターネット回線の問題
- Wi-Fi電波の問題
- ルーター・アクセスポイントなどネットワーク機器の問題
- パソコンやタブレットなど端末側の問題
- 同時接続数や通信量の問題
現場では、これらをまとめて「Wi-Fiが悪い」と表現していることが珍しくありません。
しかし、原因によって対応方法はまったく違います。
たとえば、インターネット回線そのものが遅いのであれば、アクセスポイントを追加しても改善しない可能性があります。
逆に、特定の居室だけ電波が届いていないのであれば、高速なインターネット回線へ変更しても問題は解決しません。
そのため、最初に行いたいのが症状の切り分けです。
まず確認したいのは「どこで・誰が・いつ困っているか」
Wi-Fiトラブルが発生したら、最初から管理画面の設定を変更する必要はありません。
まずは現場で起きていることを確認します。
1.施設全体で起きているのか
「インターネットが遅い」という話があったら、
- 事務室でも遅いのか
- 相談室でも遅いのか
- 居室でも遅いのか
- すべてのフロアで起きているのか
を確認してみます。
施設全体で同じ症状が発生しているのであれば、インターネット回線やルーターなど、ネットワークの上流部分に問題がある可能性があります。
一方、
「2階の奥の居室だけ切れる」
という場合は、Wi-Fiの電波が届きにくいことなどが疑われます。
2.すべての端末で起きているのか
次に、
- パソコンでも遅い
- タブレットでも遅い
- スマートフォンでも遅い
という状態なのか、
「特定のタブレットだけ遅い」
のかを確認します。
一つの端末だけで発生している場合には、Wi-Fi設備ではなく端末側に原因がある可能性があります。
OSやドライバー、Wi-Fi設定、端末自体の不具合なども確認対象になります。
3.いつ発生するのか
時間帯も重要な手掛かりです。
たとえば、
朝は問題ないが、昼前から遅くなる
のであれば、その時間帯に通信が集中していないか確認します。
記録入力、動画視聴、オンライン会議、クラウドへのデータ同期、OSやアプリのアップデートなどが重なると、通信量が大きくなる場合があります。
「常に遅い」のか「特定の時間だけ遅い」のかによって、疑う場所も変わってきます。
確認ポイント1|インターネット回線とWi-Fiを分けて考える
最初に理解しておきたいのが、
「インターネットが遅いこと」と「Wi-Fiが遅いこと」は同じではない
という点です。
Wi-Fiは、パソコンやタブレットから施設内のネットワーク機器までを無線でつなぐ仕組みです。
その先にインターネット回線があります。
イメージすると、
端末 → Wi-Fi → ルーター等 → インターネット回線 → インターネット
という流れです。
そのため、可能であれば有線LANで接続したパソコンでも通信状況を確認してみます。
有線LANでも遅いのであれば、Wi-Fi電波以外の部分に問題がある可能性が高くなります。
逆に、有線LANでは問題ないのにWi-Fiだけ遅いのであれば、アクセスポイントの配置や電波環境などを中心に調べることができます。
このように、一つずつ原因候補を減らしていくことがトラブル対応の基本です。
確認ポイント2|特定の場所だけ電波が弱くないか
福祉施設では、一般的な住宅や小規模な事務所とは異なる建物上の特徴があります。
たとえば、
- 部屋数が多い
- 廊下が長い
- 複数階に分かれている
- コンクリートの壁がある
- 防火扉などの建具がある
- 事務室から居室まで距離がある
といった環境です。
そのため、
「事務所にWi-Fiルーターを1台置けば施設全体で使える」
とは限りません。
Wi-Fiには主に2.4GHz帯や5GHz帯などが利用されています。
一般的に2.4GHz帯は障害物の影響を比較的受けにくく広い範囲へ届きやすい一方、ほかの機器との電波干渉を受けやすい特徴があります。5GHz帯は比較的干渉を受けにくい一方、壁などの障害物の影響を受けやすくなります。メーカーの技術情報でも、このような違いが案内されています。
そのため、
「ルーターの近くでは快適なのに、廊下の奥へ移動すると切れる」
という場合には、契約回線の速度よりもWi-Fiの電波環境を確認したほうがよい場合があります。
確認ポイント3|ルーターやアクセスポイントの置き場所
Wi-Fi機器は、どこに設置しても同じように通信できるわけではありません。
たとえば、
- 建物の端に設置されている
- 床付近に置かれている
- 金属製の棚の中に入っている
- 壁や大型家具の陰になっている
- 利用場所との間に複数の壁がある
といった状況では、電波環境に影響する場合があります。
特に福祉施設の場合、
「インターネット回線の差込口がそこにあるから」
という理由だけで、事務室の隅や通信機器収納棚などにWi-Fiルーターが置かれているケースもあります。
施設全体で利用するのであれば、回線の場所だけではなく、
「職員が実際に端末を使う場所まで電波が届いているか」
という視点が必要です。
ただし、施設全体のネットワークを改善するためにアクセスポイントを増設する場合は、単純に台数を増やせばよいとは限りません。
アクセスポイントの配置や接続方法などを含めたネットワーク設計については、別記事で詳しく扱います。
確認ポイント4|接続している端末が増えすぎていないか
Wi-Fiにはパソコンだけが接続されているとは限りません。
施設によっては、
- 職員用パソコン
- タブレット
- 業務用スマートフォン
- ネットワークプリンター
- テレビや動画再生機器
- ネットワークカメラ
- IoT機器
- 来訪者のスマートフォン
など、多くの機器が接続されている場合があります。
開設当初はパソコン数台だけだった施設でも、ICT化が進むにつれて接続機器が増えていることがあります。
そのため、
「昔は問題なかったのに、最近Wi-Fiが不安定になった」
という場合は、現在どの程度の機器がネットワークを利用しているのか確認してみることも重要です。
特に、端末数が増えた時期とトラブルが発生し始めた時期が重なっている場合には、一つの手掛かりになります。
確認ポイント5|電波干渉が起きていないか
Wi-Fiは電波を利用するため、周辺の無線環境によって通信状況が変化する場合があります。
特に2.4GHz帯は、5GHz帯に比べて電波干渉を受けやすい特徴があります。
また、近隣にも多数のWi-Fiネットワークがある場合には、使用する無線チャンネルなどの影響を受けることがあります。
実際にWi-Fi機器メーカーも、通信が遅い・途切れる場合の確認事項として無線チャンネルの変更などを案内しています。
ただし、業務用ネットワークでは、
「よく分からないから設定を片っ端から変更する」
ことはおすすめできません。
現在の設定内容を記録し、使用している機器のマニュアルやメーカーのサポート情報を確認しながら対応します。
確認ポイント6|機器を再起動して改善するか
ルーターやアクセスポイントなどの再起動によって、一時的に通信状態が改善することがあります。
ただし、
「再起動したら直ったから解決」
と考えないことも大切です。
何度も同じ症状が繰り返されるのであれば、
- いつ発生したのか
- どの場所で起きたのか
- 何台程度の端末に影響したのか
- 再起動によって改善したのか
を記録しておきましょう。
後から保守会社や専門業者へ相談するときにも、この記録が原因調査の重要な情報になります。
また、電子記録システムなどネットワークを利用する業務が動いている最中に機器を再起動すると、施設全体の通信が止まる可能性があります。
影響範囲が分からないネットワーク機器を、業務時間中に安易に再起動することは避けたほうが安全です。
確認ポイント7|ファームウェアが古くなっていないか
Wi-Fiルーターやアクセスポイントも、導入したらそのまま永久に使えるわけではありません。
ネットワーク機器には「ファームウェア」と呼ばれるソフトウェアが入っています。
IPAは、企業・組織のセキュリティ対策として、ルーターやスイッチなどについて最新のファームウェアへ更新して維持することを案内しています。
JPCERT/CCもWi-Fiルーターについて、脆弱性への対応という観点から最新ファームウェアの利用や、使用している機器の型式・サポート状況を確認することを推奨しています。
実際、ネットワーク機器の脆弱性については現在も継続的に注意喚起が行われています。IPAは、サポートが終了した古いネットワーク機器について更新や廃棄を検討することも挙げています。
そのため、通信トラブルの確認とあわせて、
- メーカー名
- 型番
- 導入時期
- ファームウェアのバージョン
- メーカーサポートが継続しているか
を把握しておくとよいでしょう。
「初期化」は最後まで慎重に
Wi-Fiトラブルについてインターネットで検索すると、
「ルーターを初期化してください」
という方法が紹介されていることがあります。
しかし、福祉事業所で使用しているネットワーク機器を安易に工場出荷状態へ戻すことには注意が必要です。
機器によっては、
- インターネット接続設定
- Wi-Fi設定
- IPアドレスなどのネットワーク設定
- VPN設定
- セキュリティ設定
- 他のネットワーク機器との接続設定
などが消えてしまう可能性があります。
元の設定が分からなければ、Wi-Fiどころかネットワーク全体を復旧できなくなることもあります。
設定内容やバックアップの有無が分からない場合には、初期化する前に導入業者や保守会社へ確認しましょう。
Wi-Fiトラブル時の簡易チェックリスト
「Wi-Fiが遅い」「よく切れる」という相談があったら、まず次の順番で確認してみてください。
症状を確認する
□ 施設全体で発生しているか
□ 特定の部屋やフロアだけか
□ すべての端末で発生しているか
□ 特定の端末だけか
□ 常に発生するか
□ 特定の時間帯だけか
ネットワークを確認する
□ 有線LANでも遅いか
□ Wi-Fiルーターの近くでは正常か
□ 場所を移動すると症状が変わるか
□ 接続端末が以前より増えていないか
□ 大量通信を行っている端末がないか
機器を確認する
□ ルーター・アクセスポイントの型番が分かるか
□ ファームウェアは最新か
□ メーカーのサポート期間内か
□ 再起動によって症状が変わるか
□ エラーランプなどが点灯していないか
この情報を整理するだけでも、専門業者へ相談するときのやり取りがかなりスムーズになります。
「Wi-Fiを強くする」だけでは解決しないこともある
Wi-Fiトラブルが続くと、
「もっと高性能なルーターへ交換しよう」
「中継器を追加しよう」
と考えたくなるかもしれません。
それで改善するケースもあります。
ただし、原因が分からないまま機器を増やしていくと、ネットワーク構成が複雑になり、かえって管理しにくくなることもあります。
まず確認したいのは、
何が問題なのか。
そして、
施設としてどこで、何台の端末を、どのような業務に使いたいのか。
という点です。
原因を整理したうえで、
- アクセスポイントを追加する
- 設置場所を変更する
- インターネット回線を見直す
- 古いネットワーク機器を更新する
- ネットワーク構成そのものを見直す
といった対応を検討します。
職員用と来訪者用のWi-Fiも整理しておく
福祉施設によっては、
「利用者や来訪者にもWi-Fiを提供したい」
というケースもあります。
ここで注意したいのが、業務で使用するネットワークと同じ環境へ、そのまま来訪者の端末を接続することです。
IPAが公開している無線LANに関する政府機関向け対策資料でも、来訪者向けの無線LANによるインターネット接続回線と、業務で使用するLANを分離することが基本対策として示されています。
Wi-Fiの「速さ」だけではなく、
誰がどのネットワークへ接続できるのか
というセキュリティの視点も重要です。
この点については、別の記事で詳しく整理します。
まとめ|まずは原因を切り分けるところから
福祉施設でWi-Fiが遅い・切れるとき、原因は必ずしもWi-Fiルーターそのものにあるとは限りません。
まずは、
「どこで、どの端末で、いつ発生しているのか」
を整理してみてください。
そのうえで、
インターネット回線 → Wi-Fi電波 → ネットワーク機器 → 端末
と順番に確認していくと、原因を絞り込みやすくなります。
特に福祉現場では、ICT化によってネットワークにつながる機器が少しずつ増えていきます。
開設時には十分だったネットワーク環境でも、数年後には現場の使い方と合わなくなっていることがあります。
「最近Wi-Fiが不安定だな」と感じたときは、単にルーターを再起動するだけではなく、現在のネットワーク環境を見直すきっかけとして考えてみるとよいでしょう。
Wi-Fiは目に見えません。
だからこそ、「なんとなく遅い」で終わらせず、症状を記録し、一つずつ原因を切り分けることが改善への第一歩です。

