介護業界では、慢性的な人材不足が大きな課題となっています。
高齢化の進展によって介護サービスの需要は年々高まっていますが、それを支える人材の確保は容易ではありません。
多くの介護施設や事業所では、限られた職員数の中で加算や人員配置の維持と質の高いケアを提供し続けるための工夫が求められています。
こうした中で注目を集めているのが、見守りセンサーやAIカメラを活用した介護DXです。
以前の見守り機器は、離床や転倒を検知して職員に知らせることが主な役割でした。
しかし、近年はAI技術の進歩により、睡眠状態の分析や行動パターンの把握、さらには転倒リスクの予測まで可能になっています。
また、2026年度介護報酬改定では、生産性向上への取り組みが処遇改善加算の要件にも関わるようになり、ICT機器の活用は安全対策だけでなく経営面から見ても重要なテーマとなっています。
見守り機器は単なる「ICT導入のための設備」ではなく、施設経営を支えるために必須なインフラへと変わりつつあります。
本記事では、最新の見守りセンサーやAIカメラの動向、注目されている製品の特徴、導入によるメリットや課題、そして今後の展望について分かりやすく解説します。
見守り機器の普及
おそらく多くの介護施設で何らかの見守り機器が導入されていると思います。
導入が進んだ背景には、「国や自治体による補助金制度の充実」に加え、「夜勤職員の負担軽減」という大きな期待がありました。
これまでの介護現場では定期巡視が中心だったものが、見守り機器の導入によって24時間体制で利用者の状態を把握できるようになり、必要なタイミングで適切な対応を行いやすくなっています。
利用者の安全確保と職員の負担軽減を両立できる可能性があることが、見守り機器の大きな魅力といえるでしょう。
さらに近年は、単なる事故防止だけでなく、見守りセンサーを活用した利用者データの記録によるエビデンスの確保という新たな価値も生まれています。
見守りセンサーとは
見守りセンサーとは、利用者の状態や行動を自動で検知し、必要に応じて職員へ通知するシステムのことです。
主な機能には、
- 離床検知
- 起き上がり検知
- 心拍測定
- 呼吸測定
- 睡眠分析
- 転倒リスクの把握
- 活動量の測定
などがあります。
最近では単に異常を知らせるだけでなく、利用者の日々の生活リズムや健康状態を可視化し、ケアの質向上に役立てるケースも増えています。
見守り機器という「事故を防ぐためのツール」に見守りセンサーという付加価値が加わり、「より良いケアを実現するためのデータ活用ツール」と変化しました。
次に見守り機器に関する最新トレンドをご紹介していきます。
最新トレンド①
マットセンサー型見守りシステム
現在、介護施設で最も普及している見守り機器の一つがマットセンサー型の見守りシステムです。
ベッドのマットレス下にセンサーを設置し、利用者の状態を24時間把握します。
従来の離床センサーは、利用者がベッドから離れた後に通知する仕組みが中心でしたが、近年のマットセンサーは、離床検知だけでなく、睡眠状態や呼吸、心拍などの情報も取得できるようになっています。
代表的な製品としては、以下が挙げられます。
- 眠りSCAN
- Nemuri SCG
- aams
主な特徴
- マットレス下に設置するため、利用者への負担が少ない
- 睡眠状態を可視化できる
- 呼吸や心拍の変化を把握できる
- 離床や起き上がりを検知できる
- 導入実績が豊富
最新トレンド②
非接触型AIカメラ見守りシステム
近年、急速に注目を集めているのが非接触型AIカメラです。
天井や壁面に設置したカメラが利用者の動きをAIで解析し、危険な行動や異常な状態を検知します。
最近のAIカメラは単なる監視カメラではありません。
映像をAIがリアルタイムで分析し、
- 起き上がろうとしている
- 転倒しそうな姿勢になっている
- ベッド柵を越えようとしている
- 車椅子からずり落ちそうになっている
といった事故につながる行動を予測できるようになっています。
代表的な製品としては、以下が挙げられます。
- Oxevision
- ペイシェントウォッチャープラス
- HitomeQ ケアサポート
主な特徴
- 利用者への装着が不要
- AIによる行動分析
- 転倒リスクを予測
- 行動履歴を記録
- 異常時のみ通知
マットセンサー型とAIカメラ型の違い
現在の介護DXにおける見守り機器は、大きく分けると「マットセンサー型」と「非接触型AIカメラ」の二つの流れがあります。
マットセンサー型は、利用者の生体情報や睡眠状態の把握に優れているものの、やはり利用者の様子を直接確認することはできないため、アラート発生時には訪室して状況を確認する必要があります。
また、有線接続がメインのため、配線が増えることによる転倒リスクや機器故障リスクなどが導入後のデメリットとなります。
一方、AIカメラ型は利用者の様子をリアルタイムで確認ができるため、マットセンサーと比べ訪室回数を減らしやすいという特徴があります。
しかし、利用者の姿勢や居室環境によっては誤検知が発生することもあり、運用面での調整が必要になる場合があります。
また、カメラ型は動画による録画仕様の製品が多いため、Wi-fiもある程度のスペックを求められるため、施設によってはネットワーク環境の改善が必要になることもあります。
aams(アアムス)
株式会社バイオシルバーが提供する見守りシステムです。
比較的新しい製品ですが、主要な介護記録システムとの連携が進んでおり、導入施設も増えています。
主な特徴
- マットレス下設置型
- 睡眠分析
- 呼吸・心拍の非接触測定
- 睡眠の質の可視化
- バイタルデータの長期蓄積・分析
眠りSCAN
介護業界では高い知名度を持つパラマウントベッドが提供する見守り機器です。
全国の特別養護老人ホームや介護老人保健施設などで幅広く活用されており、高い知名度と導入実績を誇ります。
主な特徴
- マットレス下設置型
- 高精度な睡眠分析
- 呼吸・心拍の非接触測定
- 睡眠・覚醒リズムの可視化
- 体動データ分析
- 介護記録ソフトとの豊富な連携実績
HitomeQ ケアサポート
コニカミノルタが提供する見守りシステムです。
見守りだけでなく、蓄積されたデータを活用したケア改善支援に強みがあります。
主な特徴
- AI行動分析
- 睡眠解析
- 転倒リスクの把握
- クラウド管理
Oxevision
英国で開発されたAI見守りシステムです。
映像をシルエット化して表示することで、プライバシーへの配慮と見守り機能を両立しています。
主な特徴
- シルエット表示による見守り
- 呼吸測定
- 行動分析
- 転倒リスク検知
見守りケアシステム M-2R
フランスベッドが提供するベッド内蔵型の見守りシステムです。
マットセンサーとは少し異なりますが非常に面白い製品のため、紹介したいと思います。
本製品はベッド全体がセンサーとなっているため、高性能な見守り機能に加え、体重測定機能や睡眠データの活用に強みを持っています。
利用者ごとの睡眠状況を可視化できるため、ケアの質向上や業務改善に役立てることができます。
一方でベッドを購入しなければならないため、コストは必然的に大きくなります。
主な特徴
- ベッド内蔵センサーによる見守り
- 起き上がり・端座位の細かな検知
- 体重測定機能
- タスクボタンによるケア記録
- ネットワークカメラ連携
ペイシェントウォッチャープラス(PatientWatcher Plus)
私が現在一番気になっている次世代型のAI見守りシステムです。
まず本製品の大きな魅力は、コストパフォーマンスが非常に高いということです。
本体のみの購入であれば30万前後(2026年4月時点)ほどだったと思います。
性能に関してですが、ペイシェントウォッチャープラスではAIを活用して利用者の次の行動を検知した瞬間に職員へ通知することができます。
- 起き上がろうとしている
- ベッド柵を越えようとしている
- 転倒につながる姿勢を取っている
また、こちらの製品は録画ではなく、一枚画を連続で撮影しているため、データ量が軽いこともメリットです。
主な機能
- AIによる転倒リスク検知
- 離床予兆検知
- 車椅子離席検知
- 居室見守り
- ナースコール連携
- スマートフォン通知
- 行動履歴分析
見守り機器は「マット」か「カメラ」か
介護テクノロジーは年々進化しています。
これまでの見守り機器は、
「離床したら通知する」
「転倒したら通知する」
という仕組みが中心でした。
しかし現在は、
- 離床したら通知
- 転倒したら通知
- 転倒しそうな状態を予測して通知
という流れへ移行しつつあります。
事故が起きてから対応するのではなく、事故を未然に防ぐことが、これからの見守り機器に求められる役割になっています。
そういう観点で考えると、カメラ型見守り機器がこれからの時代に合っていると考えられます。
立ちはだかるコスト問題
ICT機器導入をするときに考えることがコストになります。
近年では国が推奨していることもあり、補助金の補助額も引き上げ傾向にあります。
しかし、一番重要なことは導入コストではなくランニングコストです。
導入後に発生するコストは主に以下となります。
職員教育
まず、プロジェクトリーダーやメンバーが見守り機器の使い方やエラー時の対応などを理解した上で、現場職員へ始動する必要があります。
例えば、以下のことが挙げられます。
- 操作研修の実施
- 活用ルールの整備
- ICT推進担当者の育成
- 新規入職職員への説明
ICT推進担当者の育成についてですが、常に上記のことをプロジェクトリーダーが続けていくと負担が増え、業務非効率になるリスクがあります。
そのため、どの職員でも対応できるようにすることが理想であり、機能とUIはとにかくシンプルなものがよいと考えます。
マニュアル整備
職員教育と同様に負担となるのがマニュアル整備になります。
介護業界に従事していてどれだけの人がマニュアルを作成することができるでしょうか。
Canvaなどのデザインテンプレートを活用することで簡易的に作成することはできますが、Canvaを使える人がどれだけいるのかという問題が発生します。
それであれば、まだ使い慣れているExcelで作成するという流れになるかと思いますが、Excelでのマニュアル作成には途方もない時間がかかります。
さらに、初期マニュアルを作成して終わりではなく、運用方法の変更や仕様変更、エラー時の対応など随時更新していく必要があるのです。
通常業務をこなしつつ、マニュアル整備をしていくとなると、完成までにかなりの時間がかかります。
修理費用
運用していくうえで必ず発生するのが修理です。
特に見守り機器で使用している配線などは非常に繊細ですぐに断線します。
精密機器に精通していない場合、壊してしまうというケースも非常に多くあります。
故障リスクを抑えるために試行錯誤していくうちに消耗品の購入費用も増えていきます。
扱いについて言及することもできますが、あまり強く言いすぎると現場職員が使わなくなる恐れもあるため、言えないなんてこともあります。
そうしていくうちに費用はかさみ、さらに、一部の職員に対して負荷がかかっていくのです。
介護現場の実情とDX
まだまだ介護現場では、「人か機械か」を選ぶ時代ではありません。
重要なのは、
「人がテクノロジーをどのように扱うか」
です。
結局のところ、どんなに便利な機械であっても職員のスキルや性質によって、そのパフォーマンスは変わってきます。
また、職員によってはより負担が増大したり、働きにくい環境になることもあります。
今回、いくつか製品を簡単にご紹介してきましたが、見守り機器や移乗支援機器などに関して、施設環境や利用者状況によって適している適していないはあるものの、使用する上での性能に大きな違いはありません。
それを扱う職員の質によってパフォーマンスは大きく変化していきます。
介護業界においてDXが進まない理由がここにあります。
しかし、これから介護職員の質を高めていこうと教育を促すのも現実的ではありません。
今の時代においては、そんな介護職員でも使える機械を導入して、微細な変化を促すのが実情です。
まとめ
見守りセンサーやAIカメラは、今や介護DXにおける主流ツールとなっています。
近年はAI技術の進歩は著しいもの、介護機器においては大きな進歩はないと言えます。
そのような中でも見守り機器はマットセンサー型とAIカメラ型の二極化しており、運用面やコスト面を考えると推奨はAIカメラ型と言えます。
介護の本質は、これからも変わらず人によるケアです。
そのケアを持続可能なものにしていくためには、収入と人材が必要であり、そのためにテクノロジーを上手に活用することが欠かせません。
本来の国の目的とは異なるかもしれませんが、自法人の収益と人材を確保するために導入することが現状の最適解と言えます。


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